今日は、Upper Bukit Timah Road にある「旧フォード工場」に行ってきた。
ここは第二次世界大戦中にシンガポールに進軍した日本軍に英国軍が降服した場所で、当時の経緯や日本占領下のシンガポールについての博物館。
日本軍がシンガポールにやってきて人々の心に大きな傷を作ってしまったことは隠し様の無い事実で、日本人としてそれを目の当りにするのはとても辛いことでもある。そんな過去なんか見たくない、と関心のない振りをすることだってできる。数年前、ある縁がきっかけで日本で平和のために活動している人達と出会った。本当の平和とは何だろうという思いをめぐらすようになった私は、事実を知らなければ何も始まらないし、世界に向けて発言することもできないと考えるようになった。それでもやっぱり重かった私の腰を上げさせたのは、同じ思いを密かに持っていた日本人の友達。
郊外の博物館まで彼女と2人、バスに揺られて約20分。到着した時、何か行事でもあったのか、物々しい軍服姿の人たちがちょうど出て行くところだった。緊張感が走った。
日本人の私達を見てどう思うだろうとドキドキしながら入り口の扉を開けると、そこに居たのはにこにこ微笑む中国系シンガポーリアンのおじさん。「どうぞ観てってくださいー」少し緊張が解ける。
中に入ると、日本軍が当時使用していた銃やランプ、自転車や日章旗、近年の日本の歴史教科書、占領下の写真やスケッチとともに、原爆投下後の日本軍の降服、731部隊、軍事裁判にいたるまでの事実がパネルとして展示してある。そこに私が見たのは、少し距離感のある視点からただ事実を伝ようとする姿勢で、もちろん戦争の狂気は感じられるものの日本に対する怒りなどは感じられなかった。展示の最後が「Taking History As A Lesson (歴史から学ぼう)」だったのは、本当に救われる思いだった。
展示室から出てきた私達を迎えてくれたのは、またまたにこやかなおじさん達。「あんたたち日本人かい?日本人にしちゃ背が高いねえ!映写室でフィルムも観るかい?」と、私達2人だけのために上映してくれた。
そのフィルムは、日本の占領時代をまとめたもので、実際の映像や体験した年配の方たちのインタビューだった。切り落とした首を持って笑う軍人の狂気じみた写真などかなりショッキングなものもあったが、一番胸に残ったのは、体験者の「原爆がなければ日本は止まらなかった」という発言だった。原爆が正当であるとは誰も心の底では思っていないと信じたいが、こんな発言をさせるほど当時の日本軍は狂気に満ちていたんだろうと想像はつく。そう、コッポラの「地獄の黙示録」で表現されたようなあの狂気。
さて、フィルムを観終わってタクシーを待っている間も、受付のおじさん達は私達の心の内を見通しているかのように終始にこやかで親切だった。こんな風に世界中が「戦争を憎んで人を憎まない」でいられたら、本当の平和になれるのかもしれないと思った。
日本には、過去の事実と対峙できるところってないね。
返信削除知らないだけ?
私も、目を逸らさずに向き合える勇気が欲しいと思います。
>かめちゃん
返信削除そう、知らなすぎるんだよね、私も含めて。
まだ戦後処理が終わっていないという意見も多いというのに。実は日本全国に平和博物館や資料館があります。例えばこことか。 http://www.shukugawa-navi.com/bunka3.html
ここまだ行ったことないな。日本がシンガポールを占領してたなんてこっちに来て初めて知ったし、この多民族国家にきて戦争含め過去についてや宗教について考えるようになったな。そういう意味でもここにきたのは意味があったかも。
返信削除あっちゃん最近いろんなとこ行ってるね~。さすが。
そうそう私はやっと2902ギャラリーへこないだいったよ。まぁまぁー無料だからいいか!という感じでした。
>Chieちゃん
返信削除私も彼女に言われなかったら行かなかったと思うよ。
でも、ほんと、外から日本を見ると今まで見えなかったものが見えるようになるよね。
2902ギャラリー!よかったね、行けて!!W
シンガポールにおける貴重な展示について初めて知りました。ウェッブサイトの情報もありがとうございます。南京やソウルにおける歴史的な展示を見たことがありますが、日本人として胸が痛み、もしできれば机の下に隠れたいと思ったことがあります。でも歴史から教訓を学ぶというメッセージには、救われます。
返信削除最近「広島・長崎への原爆投下再考 日米の視点」(木村朗、Peter Kuznick 著 法律文化社)を読み、日本とアメリカの歴史観の違い、原爆投下の理由など考えさせられました。原爆投下がなくても日本は敗北していたが、戦後の対ソ戦略、日本人への人体実験という側面の指摘は鋭いと思いました。
シンガポールに行けなくてもこのように学ぶことができて幸いでした。ありがとうございました。
国際ばあさんより
>和代せんせ
返信削除コメントありがとうごさいます!
シンガポールは、どちらかというとまだ親日傾向があるように思います(国益のためかもしれません)が、中国・韓国での展示はきっともっと辛いものなのでしょうね。
先日、字幕を翻訳させていただいたロトブラット博士のドキュメンタリー映画の中でも、フルシチョフ氏があの原爆は「ソ連への牽制」だったと語っています。何にせよ、悲劇を繰り返すことは避けなければなりませんね。
こちらこそコメントをありがとうございます!
返信削除そういえばロートブラット博士のドキュメンタリー映画の翻訳ではお世話になりました。彼と他の方との共著ですが、Hiroshima and Nagasaki: Restrospect and Prospect [ペーパーバック] Frank Barnaby (編集), Douglas Holdstock (編集) がイギリスで出版され、私も執筆しました。Amazonで売っています。
シンガポールでの貴重な体験をブログで公開されて、素晴らしいですね!
和代
>和代せんせ
返信削除素晴らしいなんて、そんな、お恥ずかしいです!!
ペーパーバック、ぜひ読んでみたいと思います。